John Zorn - アヴァンギャルドミュージックの帝王 後編【アヴァンギャルド音楽の名盤・おすすめアルバム】
- 入門にうってつけなプロジェクト「Masada」
- アヴァンギャルド音楽の歴史を変えた「Naked City」
- グラインドコアとフリージャズを合体させた「Painkiller」
- モダンジャズやクラシックをベースにした近年のソロ作
☟前編を未読の方はこちらから
http://ongakuyawa.site/entry/johnzorn-review
入門にうってつけなプロジェクト「Masada」
時系列順でいくとこちらは後期のプロジェクトになるんだけど、間違いなく一番とっつきやすいのであえて最初に持ってきました。
民謡「ドナドナ」や映画「シンドラーのリスト」のテーマ曲で有名な、ジューイッシュ音楽のルーツともいえる伝統的なジャンル「クレズマー」の音階を使用したメロディが特徴的。
マサダには大別して「エレクトリック・マサダ」と「マサダ・ストリング・トリオ」の2グループがあるんだけど、どちらもジョン・ゾーンによって集められた各界の名プレーヤーによる驚天動地の化学反応が楽しめるので、是非聴いてみてほしい。
☝エレキギター、エレキベース、キーボードなど、電子楽器をメインに編成されたエレクトリック・マサダ。
特にロック寄りのフュージョンが好きな人にはドストライクな内容となっているはずなので、是非ご一聴を。
☝バイオリン、チェロ、コントラバスによるストリング編成の「マサダ・ストリング・トリオ」。
クラシックを意識した伝統色の強いサウンドと、クレツマーの土着的な音階が見事に融合されていてカッコいい。
アヴァンギャルド音楽の歴史を変えた「Naked City」
ネイキッド・シティは、1988年に結成され、以降およそ5年間にわたって活動を続けた初期のジョン・ゾーンの代名詞ともいえるアヴァンギャルド・グループ。
☝楽器編成は、エレキギター、エレキベース、ドラムス、ボーカル、サックスといたって普通だが、5秒おきくらいのペースでジャンルの異なる楽曲が次々に切り替わって演奏される特異なスタイルは、当時かなりの物議をかもしたらしい。
様々なジャンルの音楽をぶつ切りにして脈略もなく繋ぎ合わせたカオスな音像を前にして、恐らく皆さんがそうであるように、僕も最初に聴いた時は頭に大きな「?」が浮かんだ。
だがそのうち、こんな途方もない悪ふざけのようなプロジェクトに本気で取り組んでいるメンバー一同の変人ぶりがだんだん愛おしくなってきて、一時期はハマりにハマりヘビロテで聴いてたもんだ。
真面目にバカやってる人たちって、やっぱり最高にカッコイイのです。
ちなみにボーカル(というかシャウト?)を担当しているのは日本アヴァンギャルド音楽界の至宝、山塚アイ。
こんな最高のシャウトをぶちかます人、僕は彼以外に思い当たりませんw
グラインドコアとフリージャズを合体させた「Painkiller」
こちらは、ジョン・ゾーンのグラインドコアに対する熱烈なリスペクトが如実に表れているグループ。
ドラムスに元※ナパーム・デスのミック・ハリス、エレキベースに音楽プロデューサーのビル・ラズウェルを迎え1991年に結成。
※グラインドコアを世界に広めた先駆者的バンド
1995年にミック・ハリスが脱退して以降は、様々なミュージシャンをゲストに迎えながら不定期で活動を続けてきたんだ。
☝グラインドコアの高速ドラムと、フリージャズの唸るようなサックスが奇跡の邂逅を果たした記念碑的(?)デビューアルバム「処女の臓腑」(なんつー名前w)収録曲の「Scud Attack」。
ネイキッド・シティ以上にアヴァンギャルドでカオスな世界観だが、僕個人としては数あるジョン・ゾーンのプロジェクトの中で一番のお気に入り。
モダンジャズやクラシックをベースにした近年のソロ作
ネイキッド・シティとペイン・キラーだけ切り取ると「アングラなヤバい人」に思われかねないジョン・ゾーンだけど、ここ10年間くらいで発表した作品はどれもモダンジャズやクラシックを根底に据えた上品な作風となっている。
一通り聞いてみると、いわゆる王道の音楽を手掛けても一級品の才能の持ち主であることが分かって興味深い。
☝こちらは僕がこれまでに聴いてきたジョン・ゾーンのソロアルバムのなかで一番好きな「O'o」収録曲の「Miller's Crake」。
ネイキッド・シティやペイン・キラーの世界観とはあまりにも対照的で、「本当に同じ人が作ったの?」と思わず疑ってしまう。
上記2グループが黒のジョン・ゾーンだとしたら、マサダやソロ作は白のジョン・ゾーンといったところか。
その多彩さには本当に驚かされるばかり。
さて、ここまでジョン・ゾーンの音楽について一通り紹介してきたわけだけど、いかがだったでしょうか?
ここで視聴していただいた曲はまだまだ氷山の一角に過ぎないので、興味が湧いた方は是非彼のディスコグラフィを掘り下げてみてほしい。
余談だけど、今回この記事を書いてみて思ったのは、(☝でもちょこっとだけ言及したが)「ユダヤ人の芸術家って本当に面白いな」ってこと。
そのうち当ブログで紹介しようと思っている現代音楽家のスティーブ・ライヒや、画家のマルク・シャガールをはじめ、ユダヤ人の芸術家って、創作に対するアプローチが極めてロジカルなんだよね。
他民族の文化のあらゆる要素を裁断して散りばめ、コラージュ的に繋ぎ合わせて全く新しい作品へと昇華させる数学的な手法は、世界広しといえどユダヤ人くらいにしかできない芸当なんじゃないかと思う。
ジョン・ゾーンも、作曲をしたり、バンドのコンセプトについて考えたりするときは、まず頭に浮かんだ抽象的なイメージを50枚くらいのカードに書き出して、ファイルに整理してから具体的な形に落とし込んでいくらしいんだよね。
そうした背景を知った上で彼の音楽を聴くとより深く楽しめるんじゃないかな。
是非、様々な顔を持つ鬼才ジョン・ゾーンの摩訶不思議で奇想天外な世界に肩までどっぷりと浸かってみていただきたい!
というわけで今日はこの辺で。Thank you for reading!