アンダーグラウンド音楽夜話

「ありきたりな音楽に飽きた」 そんな方のために、農作業の傍ら音楽の世界を掘り続けてきた主がニッチでディープなアーティストをジャンル問わずご紹介します

Elizabeth Cotten - 晩年にデビューしたふたりの伝説的フォークシンガー(前編)【フォークの名盤・おすすめアルバム】

 

突然ですが、渋い音楽って好きですか?

 

渋い音楽といえばやはりフォークとブルース。

僕のフォーク・ブルースとの出会いはボブ・ディランザ・バンドで、オヤジが大好きだったからその影響で聴き始めたんだよね。

 

皆さんのなかにも、親の影響で昔の音楽に親しむようになったっていう人は多いんじゃないでしょうか?

 

今回は、数あるフォーク・ブルースシンガーのなかでも、僕的に一番渋くて味わい深い人たちをご紹介。

是非最後まで読んでいってください。

 

ボブ・ディランの血肉となったフォークミュージックの先人たち

 

今回、前編・後編に分けて取り上げるのは、エリザベス・コットンとミシシッピジョン・ハート

あのボブ・ディランにも多大な影響を与えたアーティストとして、フォーク・ブルースリスナーの間では語り草になっている伝説的な存在なんだ。

 

百聞は一見に如かず。

まずは、お二方の最晩年の写真が載っているこちらのふたつのアルバムのジャケットをご覧いただきたい。

 

I'm Going Away

I'm Going Away

  • Elizabeth Cotten
  • シンガーソングライター
  • ¥153
  • provided courtesy of iTunes
Candy Man Blues

Candy Man Blues

  • Mississippi John Hurt
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

いかがだろう? この圧倒的なおばあちゃん・おじいちゃん感(語彙力w)

ふたりの老人が幸せそうにギターを抱えている写真は、おばあちゃん子・おじいちゃん子の人なら、きっとたまらないものがあるだろう。

 

次に、是非再生ボタンを押して音源を一通り聴いてみてほしい。

どうだろうか? この曳き立てのブラックコーヒーのような素朴で暖かい演奏と歌声は。たまらないよね~

 

彼らは決して歌が上手いわけではないし、ギタープレイの技巧性も高いとはいえない。

しかし、フォークシンガーは世界に数多くいれど、味わい深さという点においては、ふたりにかなう者はいないのではないかと思う。

 

人生の酸いも甘いも味わい尽くした者にしか醸し出せない、圧倒的な存在感と説得力がその音楽には宿っていて、少年時代のボブ・ディランが熱烈に憧れたのも頷ける。

 

ちなみに、誤解を与えるといけないので先にお伝えしておくけど、このふたりの間柄は、夫婦でもなく、血縁者でもなく、赤の他人同士。

(生前一緒にコンサートを行ったりして親交はあったんだけどね)

 

たけど、彼らにはやたらと共通点☟が多いもんだから、今回同じくくりで紹介しようと思ったわけ。

 

大恐慌や世界大戦など、20世紀の荒波を生き抜いた黒人シンガー

・「フィンガーピッキング奏法」(弦を親指と人差し指・中指でつま弾くフォークの奏法)の先駆者

・晩年になってからようやくデビューを果たした

 

ここで特に注目してほしいのは、「晩年になってからようやくデビューを果たした」という点。

 

そう、何とこのふたり、プロのミュージシャンとして活動し始めたのは還暦を過ぎてからそれまでの職業はというと、エリザベスは家政婦で、ジョンは小作人

音楽業界のような華やか世界とは縁遠い環境で、安い賃金を頼りに細々と暮らしていたんだ。

 

彼らはプロになるまでにそれはそれは長い道のりを歩んだわけだけど、そのストーリーを知った上で曲を聴くと、より深~く染み入るものがあるはずなんだよね。

 

というわけで、ここからは、それぞれの人生の軌跡を早足に辿ってみよう。

まずはエリザベスから!(ジョンは後編で)

 

少女時代に名曲「Freight Train」を作曲

 

Freight Train

Freight Train

  • Elizabeth Cotten
  • シンガーソングライター
  • ¥153
  • provided courtesy of iTunes

☝エリザベスの代表曲として今でもたくさんのフォークリスナーに愛されている「Freight Train」は、実は彼女が10歳そこそこのときに書いたもの。

 

この頃から彼女は音楽の道へ進む願望を持っていたんだけど、13歳で母親と一緒に家政婦として働き始めた上に、15歳で結婚して早々に娘リリーを授かっちゃったもんだから、不本意ながらも10代で大好きなギターを手放すことにしたんだ。

 

その後、リリーが大きくなって結婚したのを機に夫と離婚。

リリーと、リリーの夫と共にワシントンD.C.へ居住地を移し、今度はデパートの従業員として働き始めたんだよね。

 

音楽一家の家政婦に ☞ 才能を見出されデビュー

 

ある日、デパートで迷子になっていた女の子の手を取り、一緒にお母さんを見つけてあげたエリザベス。

このお母さんがなんと、後に著名なフォークシンガーとなるマイク・シーガーの母で作曲家のルース・クロフォード=シーガーだったというから、人の世の縁とは本当に不思議なもの。

それがきっかけでルースと仲良くなったエリザベスは、シーガー家の家政婦として雇ってもらえることに。

で、音楽一家であるシーガー家の面々と親交を深めていく中で音楽への情熱を徐々に取り戻していき、40年ぶりにギターを手にして、作曲活動に没頭していくようになったんだ。

 

63歳でデビューアルバムを発表 ☞ 80代でグラミー賞受賞

 

エリザベスは、1958年にマイクの協力のもと寝室で録音したデビューアルバム「Floksongs and Instruments With Guitar」を発表。

これが高い評価を得て、その後ツアー活動にも精を出すようになり、

それから四半世紀あまりが経った1984年(80代)には、アルバム「Elizabeth Cotten Live」でついにグラミー賞まで受賞しちゃったんだ。

 

還暦を過ぎた一介の家政婦が、40年ぶりにギターを手に取って一からコツコツ練習し始めて、それから20年後にグラミー賞を受賞する。

こんなの、物語でも思いつかないような筋書きだよね。

事実は小説よりも奇なりとはまさにこのとですな。

 

そして名実ともにフォーク界の大物アーテイストとなったエリザベスは、92歳で亡くなるまで、毎日のように大好きな弾き語りをしながら幸せな晩年を過ごしましたとさ。

めでたし、めでたし。

 

おススメのアルバム

 

☝さて、そんな彼女のおススメのアルバムだけど、僕はこちらの「Freight Train and Other North Carolina Folk Songs and Tues」を推したい。

☝で紹介した「Freight Train」をはじめとして、暖かみのあるサウンドを楽しめる傑作なので、是非手に取ってみてほしい。

 

☟後編(ミシシッピジョン・ハート)に続く

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